【まちの見本帖】現地取材レポート・千葉県松戸編|個人がまちで活動できる場と仕組みをつくること

 
2021年より、全国各地で先進的なまちづくりに取り組む人や会社を紹介してきた、まちびらきイベント「まちの見本市」。
この秋から新たに調査チームを立ち上げ、出店者の皆さんが実際に活動している“まち”を訪ね、その取り組みの背景や仕組みを深掘りする調査をスタートしました。
調査のプロセスや考察は、事業者の取り組みを「媒介」という視点でまとめる調査ブック『まちの見本帖』、そしてまちの風景や声を届けるポッドキャストシリーズ『まちの見本録』として発信していきます。
次回のまちの見本市に向けて、訪れるまちは全部で6か所。本レポートでは、その調査の一部をお届けします。
今回の調査・取材先は、千葉県松戸市を中心に活動されているomusubi不動産の代表、殿塚建吾さん。
賃貸・売買といった一般的な不動産業にとどまらず、物件のリノベーション、シェアカフェの運営、アートフェスの開催、さらには田んぼづくりまで、“不動産”の枠を大きく超えて活動する殿塚さん。その実態を知るべく調査チームは現地を訪れました。
 
殿塚 建吾(とのづか けんご)
1984年生まれ。千葉県松戸市出身。中古マンションのリノベーション会社、企業のCSRプランナーを経て、房総半島の古民家カフェ「ブラウンズフィールド」に居候し、自然な暮らしを学ぶ。震災後に地元・松戸へ戻り、松戸駅前のまちづくりプロジェクト「MAD City」にて不動産事業の立ち上げを担当。2014年4月に独立、「おこめをつくる不動産屋」omusubi不動産を設立。築60年の社宅をリノベーションした「せんぱく工舎」をはじめ、多くのシェアアトリエを運営。空き家をDIY可能物件として扱い、管理戸数は日本一(2024年)。2018年より松戸市、アルス・エレクトロニカと共同で国際アートフェス「科学と芸術の丘」を開催。2020年4月からは下北沢のBONUS TRACKに参画し、2つ目の拠点となる下北沢支店を開設。田んぼをきっかけにした入居者との暮らしづくりにも取り組んでいる。
取材先の松戸市は、千葉県北西部に位置し、東京都と隣接する人口約50万人の都市。
ベッドタウンや生活都市として知られる一方、江戸時代には水戸街道の宿場町として栄えた、歴史あるまちでもあります。
今回の調査は、omusubi不動産の創業地でもある八柱駅周辺からスタートしました。
 
最初に訪れたのは、JR新八柱駅から徒歩約4分、さくら通り沿いにある曜日替わりカフェ「One Table」。
曜日ごとに店主が入れ替わり、栄養たっぷりの家庭料理を提供するランチ営業の日もあれば、手づくりの焼き菓子とコーヒーを楽しめる日もあります。店主それぞれの個性が、表現される場所です。
いきなり店舗を借りてお店を始めるのはハードルが高い、そんな人でも「まずは週1日からやってみる」ことができるのが、この仕組みの魅力。2016年の開業依頼、ここから独立し人気店を構える方も多く生まれています。
 
 
次に訪れたのは、「せんぱく工舎」。
昭和35年に建てられた神戸船舶装備株式会社の社宅を改装した、クリエイティブスペースです。
1階には地域に開かれたショップやカフェ、バルが並び、2階はアーティストや作家のアトリエとして利用されています。
特徴的なのは、築古の建物でありながら室内がすべてDIY可能であること。賃料も都内と比べて抑えられており、制作スペースを必要とするアーティストやクリエイターにとって、非常にありがたい環境です。利用者の半数近くは松戸市外から来ているそうで、この日も利用者による展示が行われていました。
One Tableやせんぱく工舎のような場所は、「何かを始めてみたい」「表現活動をしてみたい」という人にとって、シェアという形をとることで活動のハードルを下げてくれます。
また挑戦しやすい空気が生まれ、横のつながりやまちとの接点が育まれるなかで、コミュニティが形成されていく。殿塚さんたちは、単に場所を貸すだけではなく、そんな循環までも生み出していました。
続いて向かったのは、新八柱駅のひとつ隣、京成みのり台駅近くの「あかぎハイツ」。
1975年築の賃貸アパートですが、リノベーションされた部屋も多く、住民参加のイベントも定期的に開催され、若い世代も多く暮らしています。
入居手続きやリノベーションはomusubi不動産が担当しており、1階には同社のオフィスも入居。
そのほか、書店のsmokebooksやレストランの亀吉農園なども並び、顔の見える関係性のなかで、和やかな雰囲気が漂っています。
 
あかぎハイツの周辺にも、いくつか管理している物件があるということで案内いただきました。
 
角地に立つのは、2025年6月にオープンしたばかりのカフェ「OSCA」。
自家焙煎コーヒーとワッフルを提供しており、テイクアウト用の小窓から店主さんが一杯ずつ丁寧にコーヒーを淹れてくれます。
 
すぐ近くには、ドーナツ屋「Dough Maker」も。
一つひとつ手捏ねで作られるドーナツは、地元の方々にも好評です。
どちらの店主さんも松戸出身だったり、「この場所を盛り上げたい」という思いを持って活動されており、地域に愛されるお店であることが伝わってきました。
住宅地エリアであるみのり台周辺には、こうした小さくもこだわりを持ったお店が点在しています。
それは、殿塚さんたちが「どんな人に、どんな使い方をしてもらうと、この場所がより良くなるか」を考えながら、物件の募集や審査を行っているからこそ生まれている風景だと感じられました。
 
次はJR松戸駅方面へ。
大正時代の古民家を改装したスペース「隠居屋」を訪れました。
家族との思い出が詰まった場所を残したいというオーナーの思いから改修が進められ、運営をomusubi不動産が担っています。
トークイベントやシェアキッチン、マルシェ、子ども食堂など、さまざまな活動が行われています。
 
続いて訪れたのは、パチンコホール「楽園」の上階にある「PARADISE AIR」。
かつてホテルだった建物を改修したアーティスト・イン・レジデンスで、omusubi不動産は入居者の管理やサポートを担当しています。
2013年の活動開始以来、国内外の多くのアーティストが滞在し、まちなかで制作を行ったり、地域の人と交流したりと、アートとまちの接点がここから数多く生まれています。
また、omusubi不動産は2018年より松戸市とともに芸術祭「科学と芸術の丘」を開催し、アーティストやクリエイター、市民が一体となってお祭りをつくり続けています。
 
一連の場所や活動を巡るなかで見えてきたのは、
omusubi不動産は、場所を「貸す・管理する」だけで終わらせず、一人ひとりが自分らしい表現や活動をしやすい場をつくり、それをまちとつなげていく存在であるということでした。
どんな人が、どんなふうに使うと良いのか。大家としての思いと、使い手の思い、その両方に寄り添いながら、暮らしや活動、コミュニティそのものを一緒につくっていく。
さらに、新築や建て替えではなく、昔からあった建物や場所の文脈を活かしながら、今の人々の活動へと接続している点も、共通していました。
Podcast収録では、今回訪れられなかった田んぼを始めたきっかけなど、殿塚さんの生い立ちも含めて、今の事業に繋がるお話しをたくさん伺いました。
ぜひPodcast「まちの見本録」(2026年1月公開予定)もお聴きください。
また、殿塚さんの活動については、来年発刊予定の調査ブック『まちの見本帖』にも掲載します。どうぞお楽しみに。
 
omusubi不動産
公式サイト:https://omusubi-estate.com/