【まちの見本帖】現地取材レポート・台東区谷中編|HAGISO・宮崎晃吉さんに学ぶ、まちの歴史を引き継ぎながら自分たちらしい日常をつくること

【まちの見本帖】現地取材レポート・台東区谷中編|HAGISO・宮崎晃吉さんに学ぶ、まちの歴史を引き継ぎながら自分たちらしい日常をつくること

 
2021年より全国の先進的なまちづくりに取り組む人・会社を紹介してきたまちびらきイベント「まちの見本市」は、この秋より調査チームを発足!出店してくださっている方が活動するまちへ訪れ、その活動の裏側や詳細を調査していきます。
 
その調査のプロセスと考察をお届けするために、事業者の取り組みを“媒介”という観点でまとめる調査ブック「まちの見本帖」、まちの風景を広めるポッドキャストシリーズ「まちの見本録」を始めます。次回のまちの見本市に向けて、訪れるまちは全部で6箇所。この調査レポートでは、調査の様子の一部をお届けいたします。
 
今回の調査・取材先は、東京・谷中エリアを中心に物件の改修と店舗運営に取り組む株式会社HAGISOの宮崎晃吉さん。
建築設計の事務所としてさまざまな店舗・施設の設計や内装デザインを手がけながら、自社でも多様な店舗を運営し、谷中のまちに楽しい場所を増やしている宮崎さん。その取り組みについて伺うべく、調査チームは現地へ足を運びました。
 
宮崎 晃吉(みやざき みつよし)さん
株式会社HAGISO 代表取締役・建築家/一級建築士。群馬県前橋市生まれ。2008年東京藝術大学大学院修士課程修了後、磯崎新アトリエ勤務。2011年より独立し建築設計やプロデュースを行うかたわら、2013年より、自社事業として東京・谷中を中心エリアとした築古のアパートや住宅をリノベーションした飲食、宿泊事業を設計および運営している。hanareで2018年グッドデザイン賞金賞受賞/ファイナリスト選出など。著書に顧彬彬と共著で「最小文化複合施設ーたまたま住んだ一軒のアパートからはじまる、東京・谷中の物語」など。
 
伺ったのは、HAGISOがある西日暮里〜谷中エリア。駅前の施設「西日暮里スクランブル」から視察はスタートしました。
山手線・千代田線・日暮里舎人ライナーが交差するターミナル駅でもある西日暮里。谷中エリアや千駄木エリアへも徒歩圏内で、少し歩けば昔ながらの下町の暮らしの風景を見ることができます。
谷中エリアを中心に建築設計から場の運営まで幅広く活動していたHAGISOは、その活動が認められ、2019年から西日暮里駅前にある高架下の遊休施設活用に携わるようになりました。
駅前の再開発が決定しており、期間限定の運用が求められていたこの施設。期間限定だからこそできることをと、これまで同エリアにはなかった棚貸し型の書店やスタンド酒場、クレープのお店など、さまざまな業態の店舗を自社で運営し、人の賑わいを生み出しています。
なかでも印象的だったのは、箱型の本棚を誰でも間借りすることのできるシェア型書店『西日暮里BOOK APARTMENT』。1つ31㎝四方で80スペースある箱型の棚は、月4000円で棚主になることができ、一箱の本屋さんを運営することができます。
吉祥寺にある『ブックマンション』というお店のあり方を参考にしてはじまったこのお店、いまでは合計150人の方が棚主に。谷中・根津・千駄木エリアをまとめて総称する「谷根千」エリアのカルチャーをあつかう棚もあれば、自然科学の棚や落語の棚、物語の棚など、棚主たちの興味と個性が光る多種多様な本棚が駅前に生まれています。
駅から少し歩けば、風情ある谷中銀座商店街へと出てきます。昭和20年ごろに生まれたとされるこの商店街。昔ながらの個人商店を中心に、飲食店や雑貨屋さん、和・洋菓子のお店など、様々な業種約60店舗が全長170メートルほどの短い通りに並んでいます。階段の上で急に視界が開け、夕日が目に飛び込んでくるその風景は「夕やけだんだん」と呼ばれる名所として愛されてきました。
まち歩きを楽しむ外国の観光客も増えている一方で、近年は再開発によってそのまちなみや、通りから見える遠景までもが変化しつつあるそう。
谷中銀座商店街を散策した私たちは、谷中の路地へと入っていきます。しばらく歩くと、見えてきたのは黒く塗られた一軒の日本家屋。ここが今回訪れたかった『最小文化複合施設 HAGISO』です。
HAGISOチームと谷中との10年に渡る関わりは、ここからはじまりました。
かつては木造アパート「萩荘」として運営され、代表の宮崎さんたちがその青春時代を過ごしたこの場所。施設内には、当時の看板や古い建具に階段など、かつての様子が残されていました。
私たちが訪れた平日の午後も、1Fのカフェはほぼ満席。学生さんくらいの若い年齢の方々から、ご高齢のご婦人達まで、幅広い年齢の方々が思い思いの時間を過ごしていました。
施設のなかには、かつてアトリエ兼シェアハウスとして人が行き交っていた萩荘の歴史を伝える黒板や、「HAGISO」となったいまの月々の取り組みを伝えるフリーペーパーなど、この場所の文脈を届けていくための工夫が散りばめられていました。
ただ空き家となった物件を引き継ぐだけではなく、その場所の歴史と文脈も含めて受け止めて、谷中を訪れる人々へ伝えていく。
かつてのアパート「萩荘」を自分たちの手でリノベーションし、新しい場所「HAGISO」へと開いていくことから、この谷中に根付いた活動をはじめた宮崎さんたち。
古く使われなくなった家屋を受け継ぎ、開いていく取り組みは、いまでは萩荘の外へと続いています。HAGISOのカフェで待ち合わせをして合流した宮崎さんとともに、谷中のまちを歩いてみることにしました。
路地を歩いていると、ポツンと置かれた看板に気づきます。見落としてしまいそうなこの看板の角を曲がれば、お店はもうすぐ。
上品な紅色の外壁と、立派な石門が目印のジェラート屋さん「asatte」。全国さまざまな土地で作られる美味しい食材を使った、素材の味を生かしたジェラートを食べることができます。
秋にお店を訪れた私たち。「黒ブドウ」や「手づみヤマモモ」など季節の味を楽しんだ
秋にお店を訪れた私たち。「黒ブドウ」や「手づみヤマモモ」など季節の味を楽しんだ
「見て欲しいところがあるんですよ」と話す宮崎さん。実は、asatteには裏庭があるという。
砂利が敷き詰められたスペースに、何人かが座れるベンチ。キッチンに隣接した出窓があるこの場所は、いろいろな人が使えるポップアップスペースとして貸し出しもしているそう。
お店にきてジェラートを食べるだけが、まちとの関わり方じゃない。空き家を人が集まる店に変えたHAGISOは、さらに広くいろいろな人が「店に立つ」というまちとの関わり方ができるように、その場所を開いているように見えました。
裏庭を使ってイベントをする人は、ポップアップ中心に活動される飲食系のお仕事の方から、近所の小学生までさまざま。HAGISOメンバーもたまにイベントをされるそう
裏庭を使ってイベントをする人は、ポップアップ中心に活動される飲食系のお仕事の方から、近所の小学生までさまざま。HAGISOメンバーもたまにイベントをされるそう
谷中で暮らすひとたちのお食事どころの1つになっている、「TAYORI」。作る人(食の生産者)と食べる人が、手紙を交わすように繋がる場所になってほしいとの思いからこの名前がついたそう。
 
実際に、店内にある「食の郵便局コーナー」で生産者からの手紙を読むことができるほか、お客さんから生産者に向けた手紙をポストに投函し、届けてもらうこともできます。
 
飲食店でありながら、日々のお惣菜と定食だけでない、生産者からの「便り」によって人と人の繋がりが生まれる場所になっていました。
 
最後に、Podcastの公開収録に訪れた私たち。会場となったのは、HAGISOの事務所が併設されたスペース「KLASS」。暮らしと学びを近づけるというコンセプトの元で生まれたオープンスペースで、宮崎さんたちのこれまでのあゆみと活動を振り返る時間となりました。
 
宮崎さんとともに谷中を歩き回って、印象に残ったのは「10年経って、まちは変わったんじゃないか?」という質問に対して返された「自分たちが関われる人や場所が増えたと思う」という言葉。自分たちをきっかけにまちが変わったのではなくて、先人達が長い時間をかけて積み重ねてきたまちの歴史のなかの“10年”に自分たちがいるという感覚からは、宮崎さんから谷中への大きな敬意を感じられました。
古くなったアパートや民家を改修し、人々が集う場所をつくったHAGISO。宮崎さんたちは、まちの人々が何かをはじめたり、交流したりすることで生まれる日々の楽しみをコツコツと生み出し続けています。
「自分たちが住んでいるまちが、自分たちにとっても楽しい方がいいから」そんな当たり前の気持ちが、宮崎さんの原動力となり、HAGISOから生まれる「まちで楽しく暮らす場所」や「仕組み」を生み出しているのでしょう。
終始楽しげに話されていたPodcastの公開収録、聞き手をつとめたのはomusubi不動産の殿塚さん。「この本(※『最小文化複合施設』)に全部書いてあるから、書いてないことを聞きたくて……」と話しはじめた殿塚さんのインタビューでは、上州人として育った宮崎さんの子ども時代の思い出や、谷中にある日常の魅力、プロジェクトに奇跡を呼び込む「見立ての力」など、ざっくばらんにお話を伺いました。
詳細はぜひPodcast「まちの見本録」(26年1月公開予定)をお聞きください。
また、宮崎さんの谷中での活動(HAGISO株式会社)の詳細については、2026年2月に発刊される調査ブック「まちの見本帖」に掲載予定です。ぜひお楽しみに。
 
株式会社HAGISO
公式サイト:https://hagiso.com/
書籍『最小文化複合施設』
2013年に東京・谷中で始まった〝最小文化複合施設〟HAGISO。その10年の歩みを振り返りながら、どうやってHAGISOがローカルと向き合い、見立て、その魅力を掘り起こしてきたのかを紹介している一冊です。関係する人たちへの取材をまとめた「インタビュー」や、アトリエ・ワン・塚本由晴氏をはじめとした四つの「対談」、図面から各店舗を分析する「おみせ大解剖」、家で楽しめるHAGISOの定番メニューの「レシピ」。さらには、HAGISOのお金まわりの話も載せた秘密の「袋とじ」まで。380ページを超える大ボリュームです。
2月14日(土)、15日(日)に開催する「まちの見本市」でも販売予定です!
 
発行元:株式会社HAGISO
本体価格:3,300円(税込)
著者:宮崎 晃吉(HAGISO)、顧 彬彬(HAGISO)
装丁・本文組版:田中 裕亮
編集:川口 瞬(真鶴出版)、山中 美友紀(真鶴出版)