【まちの見本帖】現地取材レポート・福井県鯖江編|TSUGI・新山直広さんに学ぶ、「つくる」と「とどける」のこれからの関係性

【まちの見本帖】現地取材レポート・福井県鯖江編|TSUGI・新山直広さんに学ぶ、「つくる」と「とどける」のこれからの関係性
2021年より、全国各地で先進的なまちづくりに取り組む人や会社を紹介してきた、まちびらきイベント「まちの見本市」。この秋から新たに調査チームを立ち上げ、出店者の皆さんが実際に活動している“まち”を訪ね、その取り組みの背景や仕組みを深掘りする調査をスタートしました。調査のプロセスや考察は、事業者の取り組みを「媒介」という視点でまとめる調査ブック『まちの見本帖』、そしてまちの風景や声を届けるポッドキャストシリーズ『まちの見本録』として発信していきます。次回のまちの見本市に向けて、訪れるまちは全部で6か所。本レポートでは、その調査の一部をお届けします。
今回の調査・取材をさせていただいたのは、福井県鯖江市のデザイン事務所・TSUGI代表の新山直広さん。京都の大学を卒業したのちに鯖江へ移住し、公務員を経てデザイナーとして活動する新山さんは、福井県内のプロジェクトしか引き受けないという“インタウンデザイナー”として、数多くのデザインを生み出している「ローカル×デザイン」のパイオニア。デザイン事務所TSUGIに加えて、観光地域づくり法人SOEという法人や工房見学イベント「RENEW」など、いくつもの場やプロジェクトを立ち上げ、一般的なデザイナーという枠をはみ出し続けているように見えます。鯖江では今何が起きていて、どんな想いで取り組んでいるのか。11月某日、編集部は鯖江へと足を運びました。

福井駅からはじまるTSUGIの風景
これまでも、まちの見本市にも出店していただいたり、イベントでご一緒するなど、元々親交のあった新山さん。
事前のやりとりの中で、「福井いっとこMAP」なる福井のおすすめスポットをまとめてGoogle マイマップを送っていただいたのですが、コメントが添えられた一つひとつを見ていると、すでに一週間くらい滞在したい気持ちに...「さすが、デザイナーの情報整理力はやっぱり違うな」と感心していると、新幹線は福井駅に到着しました。

駅を降りると恐竜がお出迎え。福井県では多くの恐竜の化石が発掘され、「フクイ」の名を冠した恐竜もいくつも存在するのだとか。日本で発掘された恐竜の化石の8割が福井県内ということで、その謎を紐解きに恐竜博物館にも立ち寄りたくなりましたが、それはまたツギの機会にということで、福井駅周辺にも多くあるTSUGIが手掛けたデザインを見に、少しまちを歩きます。
まずは、TSUGIがネーミング、ロゴデザイン、施設内サインデザインなどを手掛けた「福井の食」が集まる複合施設「MINIE」へ。駅前の人通りの多い商業施設ですが、こういう場所のデザインがいいと、なんだか街全体の印象すらよく感じられるものです。腹ごしらえには、鯖江に行く前にということで、越前そば(焼鯖乗せ)をナイスチョイス!


TSUGIがデザインした商品をはじめ、デザイン性やストーリー性のある福井県内の商品・お土産が売られています。一つひとつの詳細レポートを書きたくなるくらい、見るからに強いストーリーを放つ品々。
伝統産業をはじめ、「つくる」ということが数多く根付いてきた福井。そこに「とどける」専門家であるデザイナーが関わることにより、歴史のあるものづくりが今の時代との接点を見出しているように感じます。
「つくる」と「とどける」は分業されがちですが、それらが触発し合う関係性が一つの地域の中に存在することに、新たなまちのあり方の糸口があるのかもしれません。


MINIEから歩くこと5分ほどのところにある、ワークラウンジ「PLAYCE」。ここは新山さんも副理事を務める一般社団法人PLAY CITYが運営する場所で、コワーキングやカフェの他、イベントスペース、お花屋さんなどのまちの中心地にあると嬉しい機能が集約された場所。クリエイティブ支援窓口機能もあるようで、どこか敷居が高く、間口が狭い印象もある“クリエイティブ”というものが、まちに開かれている様子は、とても自然体なものでした。

続いて向かったのは、福井県庁前にある「しろっぱ」という公園。こちらもTSUGIがデザインを担当されたということなのですが、なんと言っても目を引くのはユニークな遊具のかたち。編集部員たちは、メガネ型のブランコでゆらゆら大はしゃぎ。公園を出るころには、雨と風も止み、曇りの多いという日本海側のまちにあたたかい日差しが差し込みました。


レンタカーを借りて、鯖江に向かう前に立ち寄ったのは、福井市内を流れる足羽川沿いにある「ヨリバカフェ」。SUPのアクティビティも提供しているこちらのカフェのデザインもTSUGIによるもの。福井駅周辺だけでも、手掛けたデザインは多数あり、確かにまちの風景の一翼を担っていました。

山あいにあるデザイン事務所
福井駅から、TSUGIのある鯖江市河和田町までは車でおよそ30分。平坦な道を進めば、少しずつ山との距離が近くなり、盆地に入っていきます。車道の脇には「うるしの里」という看板がお出迎え。果たしてこの先にデザイン事務所があるのか少し不安になりながら、山間の奥へと進みます。

TSUGIのオフィスに到着!事務所スペースは3階にあり、1階ではSAVA!STOREの本店が営業されています。元々は漆器店のスペースだったこちらの建物。1階の一部を事務所としてお借りすることになってから、徐々にスペースを広げ、メンバーが20名となった今では、事務所スペースも3階に移して、今の使い方になったそうです。
「ようこそ〜!」と3階から新山さんの元気な声が。一声でパッと空気が明るくなります。


まずはじめに、打ち合わせスペースで新山さんの活動をスライドで紹介いただきました。デザイナーという職業であることだけでなく、講演などで説明しなれているとはいえ、その説明の洗練度には驚愕です。言葉にする、デザインする、話すといったコミュニケーションの基礎があるからこそ、ここまでのプロジェクトの数をこなし、広がりのある発信ができるのだと納得。全体像と背景についてのお話を伺ったあとは、事務所を案内いただきました。

3階ではスタッフのみなさんが作業中。二階の窓からは山が見えて気持ちがいい。眼を酷使しがちなデザイナー職にとって視線を逸らした先に自然豊かな景色があることはとても良いことなのではないでしょうか。

TSUGIが手掛けてきたデザインワークもいくつか見せていただきました。現在、新山さんは自分で手を動かしてデザインすることからは離れて、クリエイティブディレクターとしてプロジェクトに関わっています。多様なデザイナーが所属していることで、得手不得手やテイストに縛られないデザインが提案できることも、さまざまなサービスや商品のデザインを手掛けられている所以だと感じました。


産地とデザイン、そして「場」が担う役割
続いて、TSUGIのオフィスから車で10分弱のところにあるシェアハウス「森ハウス」へ。「どうして、シェアハウスへ?」と思いながらも、どうやらこの家がTSUGIにとっても重要な場になっているのだとか。以前TSUGIに在籍していた森一貴さんがはじめたシェアハウスで、TSUGIが運営をしているわけではないものの、新たに社員になるメンバーの鯖江への引っ越しを受け入れる場になったり、コミュニティの拠点になっています。SAVA!STOREのスタッフであり、住民の西澤さんが家のご案内をしてくれました。洗練されたTSUGIのオフィスとは対照的に、なんとも素朴で遊び心のあふれる空間。まちにおいて、落ち着ける空間があるかはとても大切なことで、まちの見本帖としても今後考察していきたいところです。


森ハウスの周辺を散策し、日も沈んできたので、TSUGIの斜め向かいにある一般社団法人SOEのオフィスへ。新山さんが副理事を務め、産業観光に関するイベントやスクール事業、メディアの運営、ふるさと納税の事務局から、宿泊施設の運営も新たにはじめる観光地域づくり法人です。新山さんのこれまでの活動を振り返ると、RENEWというイベントが一つの転機となっていますが、詳細はまちの見本帖や見本録をぜひ。

SOEの1階スペースをお借りして、まちの見本帖の発行元であるomusubi不動産の代表・殿塚さんと、Podcast「まちの見本録」の収録を。新山さんが鯖江に来た当時はだいぶ尖っていた話など、貴重な話もお聞きできました。ぜひ本編をお聞きいただければ嬉しいです。

33人もの職人さんやデザイナーが関わったという内装は素晴らしく、また和紙漉き体験ができる受付はおそらく世界初でしょう。
3つの個室がありますので、越前鯖江に行ってみたい!という方はぜひ泊まってみてください。


新山さんの活動やインタビューの記事については、2月にまちの見本市で配布予定の『まちの見本帖』にも掲載します。
そちらもお楽しみにしていてください!
以上、最後までお読みいただきありがとうございました!
TSUGI
公式サイト:https://tsugilab.com/
SOE
公式サイト:https://soe.or.jp/