まちの価値を「方程式」で解く。多文化共生型自治と、リスクを背負う民間の覚悟【まちの見本帖座談会・後編】

まちの価値を「方程式」で解く。多文化共生型自治と、リスクを背負う民間の覚悟【まちの見本帖座談会・後編】
江戸時代の自治まで遡り、複数の理念が共存する運動体の集合としての地域のあり方に議論が及んだ前編に引き続き、5人の専門家が「民間主体の地域経営は実現されるのか?」という問いに対して考えを巡らせた座談会の模様をお届けします。
議論はさらに白熱し、地域経営を定量化する「空間価値の再生産方程式」の提案へ。地域内キャッシュフロー、人的資本、そして「そのまちらしさ」を支えるマインドをどう育むべきか。「美の基準」からポッドキャスト、さらには「ゴミ収集」のあり方まで。単なる理想論に留まらず、民間がリスクを背負って公共領域にレバレッジをかけることの意義を問い直します。
管理より応援を。行政と民間の幸福な連携とは
── 行政がサポートに徹するにしても、まず民間のおもしろい動きを知らないことには応援のしようがないですよね。現状は行政の民間を知ろうとするアクションが足りていないように映るんですが、どうですか?
林:全然足りていないと思います。が、それも結局のところトップが経営者でないことに起因していると思っています。経営がないまま、行政組織として絶対に止めることのできない管理の機能だけが強化されているのが現状で、管理の志向が高まれば高まるほど、新しく何かを始める人を応援しようとは思わなくなります。管理する上ではこれまで通りが一番ラクですからね。そういう状況になってしまっているんだと思います。

殿塚:そんな中でも松戸では自発的な人が割と増えているなと感じていて。なぜ増えているのかについては僕なりの仮説があります。omusubi不動産ではこれまでDIY可能な賃貸を多く取り扱ってきたのですが、DIYなので、本来タッチしてはいけない部分にまで住民が手を加えていいことになっています。それを公共まで拡張してやってみて、「ここまでやっても許されるんだ」という成功体験を得た、そういう人が増えていることがまちに自発性を広げているのではないかと。手前味噌ですが、そんなふうに思っているんです。
現に、まちづくりのイベントに参加しても最初は「私なんか」みたいに言っていた人が、1年半ぐらい活動しているうちに、自分でZINEをつくって仲の良い店で売るようになっている。そういうものがバンバン生まれる様子を近くで見ている中で浮かび上がったのが「運動体」というテーマでした。
じゃあこういう活動をどんどん促進させるにはどうすればいいのかですけど、こうしたサークル的な活動に対して部費程度でもいいから行政が払ってくれると、割といい具合に行くんじゃないかと思うんです。がっつり外注費を支払うのと比べればだいぶ予算を圧縮できますし、それでいて多様な活動が生まれるといったことがありそうだなと。
たとえばこのBONUS TRACKの植栽の管理は、小田急電鉄ではなく、シモキタ園藝部という民間団体がやっています。住民が手を加えていいというワークショップを通じて緑の管理をしている。自主的にやっている活動だから小田急の外注費としては少し減っているし、それでいて生まれている風景はただ枝が伸びている・伸びていないというものではなく、いろいろな人の幸福が生まれている。そういう投資の仕方と受け皿のつくり方はあり得るんじゃないかと思うんです。

小さな成功体験がまちの自発性を育む
佐藤:皆さんよくご存知だと思うんですが、神奈川県の真鶴市には「美の基準」という理念があるじゃないですか。行政が本として出していて、まちの人たちにとってはそれがアイデンティティになっている。本に書かれた基準と同じようなものを美しいと思う人たちがまちに住んでいて、それを守るためにあるのが事業、という関係性になっています。これこそが理念であり、コンセプトだなと思うんですよね。

柄澤:多様性もうまく生まれるんですよね。69個ある基準の中から自分が好きなものを選べるから。
佐藤:そうなんです。この価値を高めるために、自分は毎朝コーヒーを飲むためのお店をつくろう、とか。そういう形で展開していくまちが、おそらく住民としても生きやすいし、まちとしても続きやすくなるんじゃないかな。
林:そういう意味で、僕は皆さんに一つ提案があって。皆さんが考える総合計画をつくってもらったらおもしろいんじゃないかと思うんですよ。
── みんなが考える総合計画。どういうことですか?
林:総合計画というのはご存知の通り、自治体によるまちづくりの最上位の計画としてあるものですけど、これがあまりにもおもしろくないわけです。一部のコンサル会社がつくったフォーマットに則って、自治体名が変わっているだけで、中身はどこもほぼ一緒。独自の具体的な方向性を示しているものはほとんどありません。けれどもこれが最上位計画である以上、そこに載っていることを実行するための組織として行政はあるわけです。その結果、現状維持かちょっとプラスくらいの成果指標をつけて、怒られない程度になんとなくやる、ということしか起こっていないのが現状だと思っていて。
北本市では15年前くらいに「駅前を顔にする」という市民参加のプロジェクトをやったんです。駅前こそがまちの顔。そのあるべき姿を皆さんはどう考えますか?というもので、そのときに考えたことが「顔本」という形で一冊にまとめられて今も残っています。行政がアトリエ・ワンと筑波大学・東京工業大学と組んでつくったものなんですが、これが内容としてもめちゃくちゃおもしろい。北本市が今やっているのは、ほとんどがそこに書いてあることの焼き直しだと感じます。要するに15年経った今になって、「顔本」をつくっておいてくれてよかった、ということになっている。
だから同じように、皆さんが考えるまちの総合計画みたいなものをつくってくれたらおもしろいんじゃないかなって。10年、20年後にこうなっていたらいいという計画を、それぞれが勝手に書いてみる。それが公式の計画になる・ならないは二の次で、みんなが考える理想のまちが見える形で残っていると、いつかおもしろいことになるかもしれない。
田中:まち全体じゃなくてこのエリア、この広場という限定的なものでもいいかもしれませんね。というのも、私も松戸に住んでいて思うんですが、駅の北側・南側でも、文化とか感覚とか住んでいる人の生活とかがまったく違う。だから松戸市とか千葉県とかいう単位で理念を打ち立てようとすると、無理が生じる気がするんです。もっと小さい単位がいいんじゃないかなって。
だから理想はやっぱり「運動体」なんですよね。運動体というのは一個人であってもいいし、組織でもいい。個人の思いを持って活動をしている人もそうだし、組織的に地域経営に近いことをやっている会社もそう。そういうものの有機的な結びつきのことだと思うんです。

空間価値を数式で表すなら……
田中:ちょっといいですか。僕はどうしても指標を立てて定量化して考えたいタイプなんで、実は今日、ここに来る前に式をつくってきたんですよ。

田中:最終的に生み出したいのは「空間価値の再生産能力」だと思うんです。これは皆さんが「共創」といった言葉で表現しているところの話で、「空間」と言っているのはその地域・エリアのこと、「空間価値」というのはその地域に根ざした文化などのことです。重要なのはそれが保存・維持されるだけでなく、再生産されていかなければならないということだと思うんです。
その上で、これは三つの項目の掛け算で出来上がるものだと考えました。
── それぞれ何を意味しているのでしょうか?
田中:一つは「地域内キャッシュフロー」がちゃんと循環していること。つまり、地域内で雇用が生まれ、稼いで食べていくことができるまちであるということです。
たとえば、僕は松戸に住んで25年になりますが、住み始めた当時は大手町に勤めていたから、銀座で遊んでタクシーで帰る毎日で、松戸で飲むことが一切なかったんです。地元で商売をしている人とたまたま仲良くなって話を聞くと、これは僕だけではなくて、どんどんベッドタウン化が進んでまちが廃れる原因になっているという。これはまずいぞと思って、そこから地元で飲むようになりました。そういう状態では新たにまちで商売を始めようという人は出てこない。だからまずは地域内で稼げて、地域内で雇用が生まれるレベルで所得が循環している必要があるだろう、と。
ですが、お金だけが回っていても、やりたいという人がいないことにはダメなんですよ。そういう人をどう発見し、成長させるのか。あるいはどう動機づけるのか。殿塚さんがやっているのはおそらくここだろうと思うんです。僕はこれを「人的資本の成長率」と名付けました。先ほど柄澤さんが「踊り場」とおっしゃっていたように、たとえば役所の人と運動体の人が出会って話をすることでも、この数値は上がっていく可能性があると思っています。
そして三つ目に「域内資産帰属率」。大手の資本が入って次々と似たようなマンションや商業施設が建ってしまうより、その町ならではの資産として地域内で承継されることが大事だと考えている地域内の富裕層が投資してくれる状態が理想だな、と。この三つの項目の掛け算が理念に向かって動いていけばいいのだろうと考えて、それを「空間価値の再生産」という言葉で表現してみたわけです。
愛着を測る指標「mGAP」の可能性
殿塚:問題は「地域内キャッシュフロー」の動機づけのところではないかと感じました。「域内資産帰属率」は金融の仕組みで解消できる気がするし、「人的資本の成長率」に関する取り組みもそれなりにある。でも、地域内でキャッシュを循環させるためのインセンティブがない気がするんですよね。「同じお金を払うなら地域に払った方がいいよね」という部分が、現状は個人の倫理に頼っているように感じます。そこをどうにか制度として設計できないものか。
田中:そこをどうドライブすればいいのかは僕もまだわかっていなくて。
林:まず重要なのは、行政が地域内でキャッシュが循環することをいいことと思えていることでしょうね。その上でそれを評価する仕組みをつくったらいいんだと思います。
少し話が変わるようですけど、僕は以前、北本市でシティプロモーションを担当していたことがあって。その際に成果指標として置いていたのが、住民の愛着度を測る指標「mGAP(エムギャップ)」というものです。これは成果を数で押さえるのではなく、人の意欲で押さえるという試みで、まちに対する住民の推奨と参加と感謝の意欲をそれぞれ11段階で測り、それが高まるように働きかけていく。
「地域内で買い物をし、就労し、困っている人を助けるようになると、まちにとってどういいのか」というところまで数値化する取り組みと「mGAP」を組み合わせられると更にいいなと思っていましたが、田中さんの三つの成果指標とうまく接続できたら、そこもクリアになる気がします。
── 推奨と参加と感謝の意欲。
林:推奨というのは、自分のまちをよその友達にどれくらい勧める気持ちがあるか。参加というのは、自分のまちに何かしらの形で関わりたい気持ちがどの程度か。感謝というのは、何かしてくれている人に対して感謝する気持ちがどの程度あるか、です。結局のところ「mGAP」で測っているのは「そのまちをどれくらい好きか」であるといえます。
田中:「mGAP」が上がれば「地域内キャッシュフロー」だけじゃなくて、「人的資本の成長率」も「域内資本帰属率」も上がりますよ。「自分のまちのために」となるわけだから。さっきの計算式にぜひ「mGAP」を加えましょう。
林:「mGAP」の課題は「地域内で買い物をし、就労し、困っている人を助けるようになると、まちにとってどういいのか」までは示せていなかったことだったんですけど、田中さんの三つの成果指標とうまく接続できたら、そこもクリアになる気がします。
そのまちらしさはどこに宿るか
柄澤:いいですね。この項目が全部上がっていけば、確かにまちの中はよくなるだろうと思います。ただ、よくなることが本当にいいのかという議論がまた別にある気もします。全部の地域がこの三つの向上を目指すと、同じまちになってしまう懸念はないんですかね。この三つの要素に足りていない要素こそが「そのまちらしさ」なのかもしれません。
たとえば松戸であれば、omusubi不動産があって、シェアキッチンのone tableがあって、MAD Cityのような少し芸術の要素も入っている。ベッドタウンから少し離れているから、地価が下がって使いやすい。サブカルチャー的な独特の空気感があって、使い倒せるまち。そういう「松戸ってこういうまちなんだ」という共通の認識みたいなものがやはりあると思うんです。
田中さんが示してくれたこの三つがベースとしてすごく大事なことに異論はないんですが、そこに重なってくる要素として、まちを決定的に特徴づける何かが一番大事なんじゃないかな、と。

柄澤:ああ、そうですね。民藝運動というのはまさに。
殿塚:松戸で10数年前、アートプロジェクトをやることになったんですが、そのときについた名前が「暮らしの芸術都市」というもので。今はすっかり形骸化してみんな忘れてしまっていますが、僕はそれが好きだったんです。これは人間の生きる工夫に芸術性を見出し、フィーチャーしようという試みだったんだと、そう僕は解釈しています。
この観点はどこの地域でも「そのまちらしさ」につながり得ると思うんですよね。地域で生きる工夫をするときには、必ず自然資源や立地環境など、固有の資源を使うことになるから。アウトプットは工芸になるときもあれば、ソフトになるときも、工業製品になるときもありますが。そこに固有性を生み出すヒントがある気がします。
佐藤:情報を遮るとうまくいくんですかね。情報が限られていると「自分たちでどうにかしなきゃ」という思想が生まれて、まちが独自の工夫で溢れてくる。そこから文化や固有性が発展していく、という構造が見えます。
でも、現代においてそれは絶対に無理ですよね。情報はすぐに共有され、コモディティ化し、均質化してしまう。かつて地ビールと言われていたものも、クラフトビールという名前に変わって「みんなのもの」になった瞬間に、コモディティ化しましたし。「クラフトビールを飲む」という文化や経済性は生まれたけれど、今では店舗数が増えすぎて苦戦も強いられていたりします。
殿塚:それこそ埼玉県小川町の「おがわのね」のようなポッドキャストが大事なんじゃないですか。そこに住んでいる人の、人間の個性のようなものはどんな時代にも必ずあるから。もちろんそれを資本化することへの心理的抵抗をどう突破するかという問題はありますけど。
田中:確かにそういうものが大事かもしれないですね。高度経済成長期に隣に住んでいる人が誰だかもわからない状態になって、今ではマンションですれ違ってもお互いに挨拶すらしない。そんな状態ではまちにどんな人が住んでいるのかなんてわかるわけないですから。
僕自身はまちの小さな店で飲むことで情報をとってるけど、それは僕が酒好きだから成立することであって。接点というとリアルな場所ばかりイメージしてしまうけれど、必ずしもそうである必要はなくて、ポッドキャストでもいいし、いろいろなことをやればいいと思うんですよね。

これは課題ではなく最先端を進む冒険だ
佐藤:僕はLIVE DESIGN Schoolというデザインスクールを仲間と一緒にやっているんですが、そこには毎年250人くらいの受講生が集まるんです。僕自身は何がそんなにおもしろいんだろうと思っているところもあるんですけど、みんな答えがない状態が不安で仕方ないんだろうと思います。学生も社会人も公務員も「正解はこれじゃないかも」という問いを抱える時代になっている。と言っても、そういう問いに対してこちらも答えがあるわけじゃなくて、みんなもがいているんですけどね。
「まちの見本市」には会津木綿のHARAPPAという事業者が参加しているんですが、その代表の方とお話ししていたら、おもしろいことを言っていて。彼女は普段ニューヨークに住んでいるんですが、イベントに参加してみた感想として「日本ってこんなに進んでいるんだ!」と驚いたと言っていました。いろいろな地域の人が集まって、まるで多文化共生を体現するような場所だねって。これができている国は世界を見てもほとんどない。ヨーロッパには確かに固有の文化が守られているところがあるけれど、異なる文化が一つところに集まったり離れたりする、まさに運動体みたいなことは世界のどこでも実現できていないというんです。
だったらもう一度そこを見直してみてもいいのかもしれないですよね。答えの出ないこの問い自体も、世界に先んじて進んだ結果と言えるんじゃないか。「これを楽しもうよ」というのが一番言いたかったことです。課題ではなく、進んだ結果。自分たちが世界の最先端を歩いていると思ったら、こうやって集まるのも、議論するのも楽しく思えるじゃないですか。そうやって楽しみながら、どう変わっているかを確認し合うようなことを毎年やっていったら、10年後には何かが見えている可能性もある。

田中:多文化共生という言葉は僕もすごくいいなと思います。ヨーロッパって一神教的なんですよ。それに対して、僕らは八百万的。だから「運動体はいくつもあっていい」といった議論も出てくるのだと思っていて。
僕はもともと銀行勤めで、左脳一本式で、原理主義のようにしてやってきました。でも、佐藤さんの言うように、これからは答えがない時代。右脳をもっと使って、非合理的なことも含めてやっていかないと価値が生まれないんじゃないかと思います。
答えがない中で新しいことを始めている人たちは、左脳だけではない、経済合理性だけではないところでいろいろと新しいことを試して、新しい解を見つけようとしている。今日お話ししていて、そのことをもっと広く喧伝できないものだろうかと思いました。役所の人たちもそうだし、これから商売を始めようという人、僕のように左脳だけでやってきたような人たちにも、「まちではこんなおもしろいことが起きているよ。みんなもやってみない?」と呼びかけたい。そうやって広げていければ、運動体も増えていくのかもなと。
柄澤:多文化共生や、それぞれの地域が文化的な資本として残っているというのは、日本が海外と比べても稀有なところなんだろうなと思います。経済合理性をとことんまで突き詰めて、爆発的成長を追い求め、IPO(新規上場株式)をして、株主還元をして……というアメリカ型の資本主義は、やはりああいう文化だから生まれたものなのであって、日本はもともと全然違う文脈の中にある。
今この時代においてはそのような資本主義が正義とされていますが、日本型の文化的な価値を追い求める価値観みたいなものをちゃんと定量化できたら、そこに爆発的な価値が生まれて「シリコンバレーの次」のように世界的に注目されることだってあり得るのではないでしょうか。それは必ずしも金銭的な価値ではないかもしれませんが。
民間と行政がリスペクトし合う未来へ
林:実をいうと、今日皆さんとお話しするまで、「民間が地域経営を」という文脈やその定義にちょっと違和感を持っていたんです。「自治体は何もやっていない」と思われているのかなって。ではそういうことを言う人たちの経営の中には、生活保護や介護、ゴミの収集といった仕事は含まれているのかなって。内心ではそういう思いがありました。
本来的な地域経営には多くの人にとってはやりたくない、そういうことをどうこなしていくかという文脈もあるじゃないですか。そこを民間側も考えているという姿勢を示さないことには、行政職員だって「どうせ好きなことだけやってる人たちでしょ」「大変なことは全部行政にやらせているくせに」という見方をする。そうなってしまうのがすごく嫌だなというのがあって。
でも、今日の皆さんの話を聞いていて、民間と行政にとっての地域経営を話せるところまで来ていること自体が、世界的に見ればかなり進んでいる状況で、その価値を再認識しました。このわけのわからない時代を危機感だけであおるのではなく、もっと楽しんだ方がいいですね。その感覚を行政や、民間で地域に関わってくれている人たちとが共有することがすごく大事なんだろうなと思いました。

田中:違和感を持っていたのは僕も同じです。「民間主体の」と言った時点で、林さんのおっしゃるようなことまでは絶対にできないと思ったから。
じゃあ、できない代わりにどんな辛い思いを引き受けるのか。それは民間主体の経営である以上、リスクをとるということですよね。リスクをとるというのは、儲かることもあれば、損をして倒産することもあるということ。楽しいのはもちろん大事だけど、楽しいだけではないということです。
あまりそれを言うとつまらなくなっちゃうから言わないようにしていたんですけど。右脳も大事だけれど、左脳も大事。両方を使うというのは絶対に忘れてはいけないことだと思います。
林:本当にその通りだと思います。今、民間の立場になってより強く感じます。行政は民間が大きなリスクを負ってやって地域に関わってくれているということ、その価値にもっと気づくべきです。一方、民間の方は行政が具体的に何を担ってくれているのかをしっかりと理解した方がいい。そこが合わさっていくといいという話ですよね。その意味でも対話の場だとか、一緒にいられる時間が大事なんだと思います。
柄澤:公共が担っているゴミ収集や生活保護などのベーシックな部分も、民間がリスクをとることによって一層効率よく、あるいは楽しくできるところもあると思っています。小田急がゴミ収集車のルートを最適化するWOOMSを開発した例もあります。行政がベーシックな領域さえ追うことが難しくなってきている時代だからこそ、民間がリスクをとってレバレッジをかけるという発想もあっていい。そこが民間経営のおもしろいところではないかなと思います。
殿塚:皆さんとお話ししていて、やっぱり小さな実験をしたくなってきました。行政を経営マインドに変えていくより、経営マインドを持った民間側が小さな実験を重ねていく。それも一社である必要はなくて、小さな運動体みたいなものがたくさんある状態がいい。まちに愛着を持ち、自治マインドを持つ人たちがやっていけると、まちにいい変化がもたらせるのではないかと改めて思いました。松戸はタイミング的にもいろいろとテストができそうな気がしているので、やってみた結果を持ち寄って、また皆さんとお話しできたら嬉しいです。今日はありがとうございました!
<鼎談者プロフィール>
林博司さん:
大学在籍時、元総務大臣である片山善博氏のもとで地方自治を学び、2010年に埼玉県北本市役所へ入庁。情報政策、広報、財政、企画、シティプロモーション、ふるさと納税分野で実績を重ね、地方自治研究賞最優秀賞、地方公務員アワードなどを受賞。2022年に退職・独立。現在はパブリシンク株式会社代表取締役・合同会社LOCUS BRiDGE共同代表として、自治体支援に取り組んでいる。
柄澤薫冬さん:
株式会社日建設計 都市・社会基盤部門・イノベーションデザインセンター。2016年東京大学大学院都市工学専攻修了。都市計画、官民連携、歴史まちづくりなどに携わりつつ、日建設計の共創プラットフォーム「PYNT」の運営を行う。プライベートでは2018年より東京都文京区の築古ビルをセルフリノベーションし、地域に暮らしながら「ブランと集まるまちのかど bunkyoblanc」を営んでいる。
佐藤哲也さん:
福島県須賀川市出身。2011年に郡山市で Helvetica Design を設立し、被災した生産者と商品開発やブランディングに取り組む。2018年に一般社団法人ブルーバードを立ち上げ、地域の学びと交流の場を創出。2021年には郡山市初の都市再生推進法人として公共空間の活用を推進。2022年に「D&DEPARTMENT FUKUSHIMA by KORIYAMA CITY」を開業。著書に『おもしろい地域にはおもしろいデザイナーがいる』(学芸出版)。
田中歩さん:
1991年三菱信託銀行入社。CRE戦略・相続不動産戦略・不動産売買仲介・ファイナンス業務に17年間従事。その後、総合不動産コンサルティング会社「あゆみリアルティーサービス」を起業。相続、事業承継、不動産投資、ALM助言、不動産売買仲介業務を展開。未上場企業や地主に対する顧問業務も受託。現在、早稲田大学大学院博士課程後期にて不動産リターンアルゴリズムを研究中。
殿塚建吾:
千葉県松戸市出身。震災後、地元・松戸に戻りまちづくりプロジェクト「MADCity」のメンバーとして活動。2014年「omusubi不動産」を設立。築60年の社宅をリノベーションした「せんぱく工舎」などを運営するなど、多数の空き家を再生し運営。2018年より松戸市にて国際芸術祭「科学と芸術の丘」を開催。2020年4月に下北沢BONUS TRACKに参画。DIY可能物件の管理戸数は日本一。